2012年02月11日
雲の上。
ぼくの父親が死んで、4年余りが経った。当時、脳梗塞と腎臓の機能不全その腎臓も2つあるべきものが、約20年前に腎臓癌がみつかったことによってその1つが切除されていたから、片方の腎臓で血液の浄化をしていたことになるのだけれど、しかも、ぼくの父親はいつも過剰な塩分を摂取していて、つまり何にでも醤油をかけてしまうという塩辛い物好きで、味噌汁にさえ醤油をたっぷり注いで真っ黒くしてしまうほどだったから、片方しかない腎臓への負担は相当だったはずで、脳梗塞の障害さえなければ迷うことなく人工透析を行っていた、それくらいの状態であったというのに、ほぼ寝たきりで改善する見通しもなかったからそれを行わなかった。
その日は担当医に呼ばれ、こんなことを告げられた。
「お父さんの腎臓の状況は日に日に悪化していて、このまま人工透析を継続的に行うことをしなければ、最悪の事態も避けられない状況です。今すぐとは言いませんが、そろそろそういうことになる可能性は高い、それを承知しておいてください」
それを聞いて、ぼくはそんなものかとだけ思った。それから、父親の病室へ行きほぼ意識の無い父親に、
「また来るから」
と言って帰った。父親はぼうっとしたままで、それでもぼくの言葉には微かに反応していた、そのように思えた。
「ああ」
と言ったのか、それが、わかったよ、という感じに聞こえたから。
そのあと、1時間もしないうちにぼくの携帯電話が鳴った。父が死んだという報せだった。あまりにあっけなさ過ぎで、少し呆然とした。それから、1時間ほど前までいたその病院に戻った。
ぼくは幼い頃から青系の色が好きだった。紺は今でも良く身に着けている。ジーンズが穿きくたびれて濃いブルーから淡いブルーへと変わる様が好きだ。水色というか。それを子どもの頃のぼくが言う度に、父親は大抵こう返した。
「水に色はないよ、空色だ」
空色。今日の空は一段と青いような気がする。 あの厚く重なった雲の上にある空の色。
Posted by sousuke at 05:52│Comments(0)
│省みるべきこと