2012年01月27日

絶望と希望。

絶望と希望。

 この本のことをブログに書いたことがある、そんな記憶があるのだけれど、また書いてみたくなったので躊躇せず書きます。レース中の事故で重度の熱傷を負い、生死をさまよい、生還してもなお変わり果てた自らの姿と数々の障害、延々と続く痛みを伴う治療で、絶望の淵に立たされた太田哲也の自伝。実は、著者である太田さんとぼくは面識があるというか、ぼくはまったくの駆け出し編集者で、太田さんもプロレーサーとして活躍しはじめた頃、一緒に仕事をさせていただいたことがある、というだけなのだけれど。
 ぼくはその頃、学研でスキー雑誌の編集に関わっていて、雪道を安全に走るスノードライブの講師役として太田さんを招き、岩手県安比高原にて撮影をしたのだった。それで、ぼくは太田さんをピックアップして東京から安比までの約600kmをワンボックスカーに乗せて連れて行く、その担当でもあった。また、取材班より一足早く帰京することになった太田さんを、安比から当時は東北新幹線の終点だった盛岡駅まで「シュミター」という英製ミッドシップ2シーターで送ったりもした。そのおかげで、太田さんとはいろいろとお話しすることができた。たとえば「スピードを怖いと思ったことはないなあ」「レースのためなら視力はいくらあっても良いので、レーシック手術を受けようと考えているんだよ」「いまはBMWのテストドライバーをしている」とか、もう20年以上も前のことで運転しながらの会話だから記憶は定かでないのだけれど、確かそんな感じだったと思う。
 その太田さんがレース中事故にあったことをテレビのニュースで知った。真っ赤なフェラーリがスピンして激突しそれで燃え上がって行く映像の中に、あの太田さんがいるとはとても思えなかった。その太田さんが事故後のことについて本を書いた、それが「クラッシュ/絶望を希望に変える瞬間」という本です。
 救いようも、救われようもない、そんな大きな損失があったとき、そういう状況に置かれた自分自身をどのように見つめて、捉えて、そして生きていくのか。生きていくためには希望を失わないことが必要なのであれば、また、希望を失うことこそが絶望なのであれば、それを取り戻すことが、生きていく力になるのだろうか。何度かこの本を読んでみたのに、そのことについては未だにわからないまま。残酷すぎる、と思ってしまう太田さんの経験したことからぼくは何を感じとったのか、それすら良くわからない。
 表紙の焼け焦げたヘルメットの中に太田さんがいた。そして、その後に太田さんはまたクルマに乗り、レースにも関わったり、自身でレースカーにも乗った。結局、僕は何が言いたいのだろう。それをみつけるために、もう一度読もうかな。少し間を空けて、ゆっくり時間をかけて。

 そういえば、東京から安比へ向かう途中でパーキングエリアに寄って休憩したとき、太田さんが「眠いからクルマの中で寝て待っているよ」と言ったのに、ぼくはエンジンを止めキーまで抜いてクルマから離れてしまった。だから、太田さんは寒くて眠れずただガタガタ震えてぼくが戻るのを待っていた、そんなこともあった。それでも「寒かったよ~」と言っただけで、嫌な顔すらしなかった。ぼくにとっては、そのことが太田さんにまつわるいちばんの思い出かも知れない。

the moment when despair turns into hope.
いまは絶望を感じてしまうかも知れないけれど、そのうちあなたにも希望がみえてくるよ、きっとね。


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Posted by sousuke at 08:51│Comments(1)読んだ本
この記事へのコメント
こちらではお初にお邪魔いたしますm(_ _)m

その事故の時、私は1コーナーのイン側でレース観戦してました。
その日は5月なのに物凄く寒い日で、物凄い勢いで出ている煙を震えながら見ていました。

事故後の太田さんの闘病のドキュメンタリー番組を拝見しましたが、何というか…安易に言葉に出来ないくらいの壮絶さでした。
それでも再び車に乗り、レースにまで参戦するエネルギー。
そんな熱いエネルギーで支えられているレース界が、車は道具ってな風潮が強くなる一方…という逆風に負けず、繁栄していくことを願わずにはいられません。
Posted by ♪魔女♪ at 2012年02月07日 15:01
 
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